【時事:お笑い×ミスド】ミスド「もっちゅりん」の衝撃と、お笑い界の異端児が脳をバグらせる「認知の不協和」

お笑い分析
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私たちが何か新しいものを体験するとき、脳は無意識のうちに「過去のデータ」と照らし合わせて、その正体を予測している。 例えば、ミスタードーナツの暖簾をくぐるとき。私たちの脳は、ポン・デ・リングなら「もちもち」、オールドファッションなら「サクサク」という風に、食べる前からその食感を正確に予習し、安心感を得ようとする(余談だが筆者はエンゼルクリームが一番好きである。あのクリームは唯一無二の存在だ。)。

しかし、2026年にミスドが放った新作(再販)「もっちゅりん」は、その脳の予測を心地よく裏切り、今までにない衝撃を与えてくれた。

……もっとも、その衝撃を味わう前段階として、現在多くの人が「そもそも店にすら入れない」「買えなすぎる」という、別の意味での衝撃(あるいは絶望)に直面しているわけだが。

この「もっちり」と「ちゅるん」が同居する未体験の食感と、連日ネットを騒がせる狂騒曲を、お笑い界における“あるスタイル”と、認知科学の理論に掛け合わせてみると、私たちが「手に入らない新しい定番」にここまで心を奪われていく、きわめて知的でエモーショナルなメカニズムが見えてくる。

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サーバーはダウン、店頭は長蛇の列。「買えない」という狂騒曲

2026年6月。ミスタードーナツの店頭には、早朝から目を疑うような長蛇の列ができている。お目当ては、連日SNSを賑わせている連日SNSを賑わせている「もっちゅりん きなこ(テイクアウト税込216円)」、「もっちゅりん みたらし(同226円)」、そして新フレーバーの「もっちゅりん いちご(同237円)」の3種類だ。
200円台前半で味わえるこの未体験の和モダンな幸福を求めて、店舗では焼き上がりと同時に一瞬で完売。

あまりの爆発的人気に、店舗では焼き上がりと同時に一瞬で完売。それならばと「ミスドネットオーダー」を開いても、画面に表示されるのは無情なエラーメッセージか、一向に進まないローディングの「ぐるぐる」マーク。連日サイトが繋がらない状態が続き、SNSには「今日ももっちゅりん買えなかった」「ネットオーダーの壁が高すぎる」という悲鳴が溢れかえっている。その熱狂は一般のファンだけにとどまらない。日々、劇場出番の合間やロケに追われるお笑い芸人たちの間でも、X(旧Twitter)やブログなどで「楽屋への差し入れ用に狙っているけれど全然買えない」「朝から並んでようやく家族のためにゲットした」といったリアルな“もっちゅりん報告”や苦戦の様子がちらほらと見られるほど。

「手に入らないと分かると、ますます欲しくなる」

この現象は、心理学や行動経済学における「希少性の効果(Scarcity Effect)」で説明できる。人間は「いつでも買えるもの」よりも、「今しか買えない、かつ供給が制限されているもの」に対して、本能的に高い価値を感じてしまう生き物だからだ。

しかし、もっちゅりんの凄みは、単に「数量限定だから売れている」という点にとどまらない。ネットオーダーの通信障害を乗り越え、長い行列の果てにようやくその一品を口に運んだとき、私たちの脳は二重の「予測エラー」に襲われることになる。

生地を噛み締めた瞬間のしっかりとした「もっちり感」のすぐ後ろから、まるでみずみずしいジュレや餅菓子を思わせるような、なめらかな「ちゅるん」とした喉越しが追いけてくる。

「ドーナツなのに、ちゅるんとする」

この、言葉にすると矛盾しているような二つの食感の同居は、私たちの食に対する既成概念を心地よく揺さぶる。そしてこの「脳が一瞬バグるような感覚」こそが、いまお笑い界を席巻しているある芸人たちの戦略と、見事なまでにシンクロしているのだ。

「コントなの? 漫才なの?」境界線で脳をバグらせる芸人たち

お笑い界において、「もっちゅりん」と同じように既存のジャンルを融解させ、観客の脳をバグらせることで天下を取ったのが、マヂカルラブリーや、ピン芸人でありながら壮大な1人コントのような世界観を作る吉住、あるいは漫才のフォーマットを使いながらも完全に演劇的なアプローチを行う令和ロマンといった面々だ。

彼らの賞レースにおけるネタも、もっちゅりんのネットオーダーと同様、初見の観客にとっては「これって何なの?」という激しい戸惑いや違和感(接続エラー)から始まる。

例えば、マヂカルラブリーの「つり革」のネタを観たとき、世間は「これは漫才なのか、コントなのか」という論争に沸いた。 センターマイクの前に立ちながらも、ほとんど喋らずに舞台上を転げ回る野田クリスタルの動きは、伝統的な漫才の枠組みからは大きくはみ出していた。

観客の脳は、彼らがステージに現れた瞬間「今からしゃべくり漫才が始まる」と予測する。しかし、実際に展開されるのは圧倒的なボディランゲージだ。 「漫才」というもっちりとした伝統的な土台の上で、「破天荒なアクション」というちゅるんとした異物が滑り込んでくる。最初はシステムエラーを起こしかけるほど戸惑うが、気づけばその世界観の虜になり、「もう一度見たい!」と強烈に渇望してしまう。この予測の裏切りこそが、彼らの爆発的な笑いのエネルギー源であり、入手困難なプラチナチケットと化す理由なのだ。

認知科学「予測符号化理論(ブレイン・プロセシング)」の快感

なぜ、私たちはこの「ネットで繋がらないもどかしさ」や「脳がバグる食感」に、これほどまでに病みつきになってしまうのだろうか。 現代の認知科学や脳科学において、人間の脳は「予測符号化(Predictive Coding)を行う器官」であるとされている。

脳は常に、過去の経験に基づいて「次に何が起きるか」を先回りして予測している。そして、実際の現実と自分の予測の間に「ズレ(予測エラー)」が生じたとき、脳はそれを修正しようと激しく活性化する。

  • 心地悪いズレ(ストレス): 予測が完全に外れ、理解不能な恐怖や、ただサイトに繋がらないだけの不快感を覚える状態。
  • 心地良いズレ(快感・笑い): 「手に入らない」「あり得ない」と思った一瞬のストレスの後に、それが「あ、でもこれ最高に美味しい(面白い)!」と、新しい秩序として脳に受け入れられ、欲求が満たされる状態。

連日ネットオーダーと格闘し、ようやく手に入れた「もっちゅりん」を一口かじる。 脳は「ドーナツ=小麦粉の塊」と予測しているのに、口内では「ちゅるん」という水分を含んだテクスチャーが広がる。ネットに繋がらなかった時間という「前振りのストレス(期待値の肥大化)」が、この未体験の食感の快感と完璧に調和して回収された瞬間、脳内には通常の何倍もの強烈な快感物質(ドーパミン)が分泌される。

お笑い芸人の優れたネタも全く同じシステムだ。 「そんな設定あるわけない」という突飛なボケ(予測エラー)が、芸人の圧倒的な演技力やツッコミのロジックによって「あ、でも確かにそう見えてきた!」と脳内で回収されたとき、私たちは「爆笑」という名の快感を覚える。手に入りにくいもの、理解しにくいものほど、回収されたときのカタルシスは大きいのだ。

ミスタードーナツ おかねのドリル

変化を恐れるあなたへ:「新定番」は、いつだって大混雑の違和感から始まる

ミスドの「もっちゅりん」を巡る狂騒に巻き込まれ、お笑い界の新しいスターたちのネタを観た後に広がる、あの不思議な満足感と爽快感。それは、私たちが凝り固まった「常識の檻」から一瞬だけ解放され、新しい世界の扉を開けたような感覚に似ている。

もし今、あなたが自分のキャリアや日常生活の中で、「いつも同じパターンの繰り返しで退屈だ」と感じていたり、逆に「新しい変化に飛び込もうとしても、障壁(エラー)ばかりで上手くいかない」と足がすくんでいるなら、この「もっちゅりん」の仕掛けを思い出してほしい。

世の中に新しい価値を提案するとき、最初は必ずシステムがパンクするような拒絶や、混雑という名の「違和感」が起きる。誰もが1秒で理解できる凡庸なものであれば、行列もできなければ、論争も起きない。

不器用な自分(もっちり)の中に、少しの新しい挑戦(ちゅるん)を混ぜてみる。 最初はエラーばかりで、周囲から「それって何なの?」と繋がらない時期があるかもしれない。しかし、その障壁を恐れずに組み合わせを磨き続けた先で、あなたは周囲の「認知」を書き換え、誰もが手に入れたいと切望する、あなただけの「新しい定番」になることができる。

常識の壁を、もっちりと、そしてちゅるんと軽やかに飛び越えていこう。そのエラーの先にこそ、連日大行列ができるような、あなただけの輝かしい未来が待っているのだから。

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